一日と云われると難しいですが、縄文時代は今とおなじように四季がはっきりしているから、一年のスケジュールなら少しはわかります。自然の食糧は季節によって獲れるものがちがうので、それにあわせたスケジューリングをしています。小林達雄教授がかつて提示した、縄文カレンダーのようなイメージでしょうね。秋はまとめて収穫できる季節なので、冬に備えた「貯蔵」が必要になります。日本では資源の計画的な貯蔵というのが始まるのが縄文時代です。貯蔵はまあ、リスとかでもやりますけどね。ひとつ例をあげると貯蔵穴です。土器に入れて貯蔵するタイプと、低湿地に掘った穴に直接食べ物を入れて灰とか葉っぱで何重にもふたをするタイプがある。一冬、あるいは何年間かの貯蔵に堪えると考えられています。ところで貴重な貯蔵食料なのに、木の実が詰まったまま出土する例がありますけど、どうしてなんでしょうかね?何かあった時のために備えた計画性のあらわれか、それともリスみたいに忘れちゃったのかもしれませんけどね(笑)。(小林)

 

 シカゴ大学でかつて「狩猟民」という画期的なシンポジウムがありました。それまで狩猟採集民は起きている時間の全てを食料確保のために労働していると、みんな思っていたんです。ところがその時の調査では、世界中の狩猟採集民の労働時間はなんと1日2〜3時間でしかなかった、他の時間何をしていているかっていうと、おしゃべり、趣味、寝てるとか…。これに対して農耕民では飛躍的に労働時間が増えることが知られています。そもそも旧石器時代のヒトってのは、多くの物を持とうとしない。私有財産は暮らせるだけの最小限。労働は食べ物をとりに行くだけ。女性はキャンプの回りで植物の採集を数時間するだけ。その日食べるものだけを、貯蔵をしないで採集する。資源にやさしいエコロジカルな暮らしと思いませんか?これは究極の断捨離生活ですよね。ただしこの生活で定住はむずかしい。資源を枯渇させないために、また動物の季節移動にあわせて、人間も移動生活をしています。彼らの領域、移動範囲(テリトリー)ですが、後期旧石器前半期では千葉県あたりだと房総半島から宇都宮くらいの範囲。武蔵野台地の人たちは、またこれと違ったかたちでテリトリーを持ち、さらに黒曜石を取るために信州や伊豆に足を延ばす。かなり広域な移動生活をしています。(長ア)

図:三鷹市 天文台構内遺跡出土 黒曜石の産地  (旧石器時代・出土層位別)

 

 一番大きい存在は土器ですね。食物加工によって食べ物のバラエティが増え、それに応じて生活のうえでも大きな変化があります。土器に文様があることも重要で、文様作りは、時期・地域によってある程度決まっていて、組み合わせを変えて作っています。今でいう東京・神奈川・埼玉くらいの範囲で共通のルールを持っています。旧石器より人口が多いのですが、安定した社会があるということも土器文様からわかります。また日本の歴史で一番耳飾りが流行したのは縄文時代ですね。江戸時代の日本には耳飾りがなくなる。これも世界的には珍しい現象ですが、縄文人は当時世界一おしゃれだったと思います。このほか土偶とか石棒など豊かな精神生活を示す道具が多いのも特徴です。骨や角で作られた釣り針や銛などの漁労具も発達しています。皮なめし専用の石器もあります。いろんな道具が特化して発達するという特徴があります。だけど石器作りは旧石器と比べて下手ですね。彼らの住まいは、竪穴を掘り、柱を立てて、草ぶきや土屋根のような屋根を葺いた竪穴住居です。結構手間のかかる本格的なものです。(小林)

写真:中期後半〜後期初頭の土器 三鷹市 井の頭池遺跡群A出土

中期の土器はキャリパー形とよばれる形が多く、細い胴部に、頸部より上が大きく広がる形です。蒸し器の機能を兼用していることが考えられています。
また口縁部が内湾しているのは、長期間の煮炊きの際に、吹きこぼれを防ぐ工夫と考えられます。

 

 人類のアフリカでの道具の消長をみてみましょう。5万年前にはすでにいろんな道具が出そろっています。骨の道具は8万年前、細石刃も5〜6万年前、装身具であるビーズ(石・骨・貝殻製)も同じ頃からあります。装身具を使うのは、我々ホモサピエンス(現代人)の特徴といえるでしょうね。装身具という道具を身に付けることによって他者と区別するという考え方は、それまでの人類にはなかった考え方です。精神生活を示す道具がみられるのも、現代人の大きな特徴のひとつです。遠くに正確に槍を投げるための投槍器も現代人特有の道具です。体力的に劣るハンデを道具でカバーするのは、体力依存のネアンデルタールにはない発想です。これによって狩猟が容易になる。ケガも少なく、効率も良い。ネアンデルタール人が滅んでいったのは道具立ての違いもあるかもしれませんね。住まいですが、シベリアにはマンモスの骨を積み上げた、とってもゴージャスな住居があります。日本を含む普通の住居は、そのへんで拾った木の枝に、簡単な毛皮をテント生地としてかぶせたもので、移動生活に適しています。洞窟遺跡をイメージする方もいるかもしれませんが、実際には少ないです。(長ア)