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新企画 横穴墓の被葬者の身体測定!?目次へ戻る
 
第1部 歯から見た被葬者(ひそうしゃ)
(3)歯に見られる遺伝(いでん)
「笑うとお母さんによく似ている。」なんて言われたことはありませんか?笑うと見える歯。この歯にも、顔や体格と同じように遺伝する要素があります。それは個々の歯同士の形態やサイズの関係、つまり歯並び全体の特徴です。例えば、前歯2本が大きくてハムスターみたいにかわいいとか、八重歯(やえば)が大きくて印象的だといったことも1つです。
 このような特徴の類似性を、2人の人について比べる方法があります。1つ1つの歯の幅と厚みを計測し、そのデータを一定の組み合わせによって統計学的に処理して相関係数(そうかんけいすう)という数値を得る方法です。相関係数は‐1.000から+1.000までの範囲内で、+や-に関わらず数値が大きいほど2人は歯の形態やサイズの比率が似ていることになり、2人が親族であれば+(-)0.500以上の値になることが多く確認されています。
 この方法は、古墳群や横穴墓群などで一団の人骨が発見された場合、親族関係を探る方法として活用されています。しかし、ひとつ厄介な問題があります。それは相関係数が高い値を示しても、実際には親族ではない場合があることが、現代人を対象に行われた実験で確認されたのです。いわゆる「他人の空似(そらに)」でしょうか。解決策として、データとなる歯の組み合わせをいろいろ変えることで「他人の空似」の現れる率を低くする工夫が考えられています。
 
 以下の資料は出山横穴墓群8号墓に埋葬されたうちのC人骨(埋葬位置は図面のC、30代前半の男性で先の歯周病の人物です)とD人骨(埋葬位置は図面のD、20代前半の女性です)、それに1.3q程離れた羽根沢台横穴墓群7号墓に単独で埋葬された人骨(単独で埋葬された30代後半の男性です)の3体の歯を計測して、相関係数を算出したデータです。
出山横穴墓群8号墓のC・D人骨は骨の特徴から兄妹である可能性が指摘されていました。この結果によると歯の計測値の組み合わせによっては最高値は+0.503で、0.500以上の値を示していますが、一方で最低値は+0.103です。これは計測に選んだ歯の組み合わせによって生じる値の幅で、似ている要素がある一方、似ていない要素もあるということです。
 しかし、異なる横穴墓群である羽根沢台横穴墓群7号墓の人骨とC人骨の間には、それ以上に高い+0.772という値が出ました。最低値も+0.531と0.500を越えています。先に述べた「他人の空似」なのか、あるいは異なる横穴墓群に埋葬された親族なのか、今後の大きな研究課題です。
比べた人骨 相関係数の最高値 相関係数の最低値
出山8号墓のC人骨 出山8号墓のD人骨 +0.503 +0.103
出山8号墓のC人骨 羽根沢台7号墓の男性 +0.772 +0.531
出山8号墓のD人骨 羽根沢台7号墓の男性 +0.316 +0.011
 

→(4)死後に失った歯の謎