その2 羽根沢台横穴墓群7号墓

死後に抜かれた歯

 羽根沢台横穴墓群7号墓では1体の埋葬人骨が確認されました。40代の男性で、発見時には骨がまとめられた状態でした。
 一般的には追葬時に、骨化した前埋葬者を玄室の隅などにまとめ、最終埋葬者を安置すると考えられますが、この場合は追葬はなく、単独の埋葬人骨がまとめられていました。
 また、埋葬人骨の上顎の歯6本がない状態でした。歯槽(歯の根の穴)が解放していて、顎骨に溝状の傷が残っていたことから、死後に道具を使って抜いたと考えられます。墓内にこれらの歯は発見されていません。他に類例もなく、風習的な抜歯とは考えられないので、何のために歯を抜いたのでしょうか?


埋葬状況実測図


埋葬人骨の歯

歯冠計測
 歯の形態や歯並びには高い遺伝性が認められていることから、埋葬人骨の歯冠(歯の萌出した部分)を計測することで親族関係を推定しました。計測歯種の組み合わせ毎にQモード相関係数(-1.0〜+1.0)を導き出し、その値が+0.5以上なら親族である可能性が高くなります。
 下表が出山8号墓のC・D人骨と羽根沢台7号墓の人骨を計測した結果です。歯冠の横長(近遠径)と奥行長(頬舌径)を計測し、7種類の歯の組み合わせ(I:切歯、C:犬歯、P:小臼歯、M:大臼歯)でのQモード相関係数(@〜F)を算出しました。 
 C・D人骨は体の骨が似ていて兄妹と考えられるのでD0.503の値が符号しますが、Cと羽根沢台の間ではC0.772、E0.531、F0.742と高い値、一方Dと羽根沢台は低い値で3者間で矛盾しています。Cと羽根沢台間は、この計測でしばしば現れる「他人の空似」と解釈されました。