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縄文時代の石の道具
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縄文時代の石器 |
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縄文時代の生活は、狩猟(しゅりょう)・漁撈(ぎょろう)・採集(さいしゅう)の3つを主な生業として成り立っていました。金属の道具を持たない縄文人にとって、石器は生活に欠かせない、大切な道具でした。もちろん動物の骨や角も、道具として盛んに使われていたことが知られていますが、三鷹のようにその大部分が黒土とロームに覆われている酸性土壌の場合、骨や角は土の成分によって分解されてしまうため、発掘によって見つけ出すことは、まずありません。貝塚(かいづか)や低湿地(ていしっち)から発見される遺物の中に、骨角器(こっかくき)や丸木舟、木でできた柄のついた斧など、土器や石器以外のものが豊富に見られるのは、土の性質の違いによるものです。
三鷹の縄文時代の遺跡では、生活に必要な様々な石器が発見されていますが、場所によって、また時期(縄文時代の中で、さらに細分される時間差)によって、発見される石器の種類や組み合わせ(組成(そせい))の違うことがわかります。その組成を、同じ地点で発見された土器や遺構(いこう)(住居跡(じゅうきょあと)など)のあり方とともに詳しく見ていくことで、その場所での人々の営みを推定することができるのです。貝塚などから発見された骨角や木の道具から、黒土の中には残らなかった遺物を想定することもできますが、一方では、海に近い貝塚と台地や丘陵にある遺跡では、使われていた道具の組成にも違いがあったと考えられます。
縄文時代は、はじめて土器が作られ、弓矢が登場する時代です。それ以前の旧石器時代とは、石器の種類も役割も、おのずと変化を見せました。今回の展示では、三鷹で発見された縄文時代の石器の中から、主なものを役割別にご紹介していきます。
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狩猟の道具 狩猟は縄文時代以前から人々の大きな生業のひとつでした。槍先と考えられている尖頭器(せんとうき)は、旧石器時代から使われていましたが、ナウマンゾウが絶滅し、狩猟の対象がイノシシやニホンジカなど、中形の動物に変わって行くのに伴い、狩猟の道具も変化しました。縄文時代初頭(草創期(そうそうき))に使われた有舌尖頭器(ゆうぜつせんとうき)は、槍と弓矢の中間的な役割を持ち、敏捷な中形獣を狩るための投槍であったと考えられています。弓矢の登場で、より敏捷なウサギなどの小動物も狩猟が可能になりました。矢の先端部である石鏃(せきぞく)は縄文時代の代表的な石器のひとつであり、遺跡から多数発見されています。時期や地域によって実にさまざまな形が見られる石器です。
漁撈(ぎょろう)の道具 気候の温暖化に伴う海水面の上昇で、縄文時代から漁撈(ぎょろう)活動が本格的に始まります。各地の貝塚からは骨角製の銛(もり)や釣り針が多数発見されています。礫石錘(れきせきすい)の一部は漁網の錘として、軽石を整形して穴をあけたものは浮子
(うき)としての使用が考えられます。
調理の道具縄文時代の食糧は、狩猟・漁撈(ぎょろう)で獲得する獣や魚などの動物質以外に、木の実などの植物質が大きな位置を占めていました。植物を調理するための道具も、遺跡には多数残されています。
敲石(たたきいし)や凹石(くぼみいし)の一部は堅い木の実を割るために、石皿(いしざら)と磨石(すりいし)はすりつぶして製粉するのに使われました。これらはそれぞれ兼用することも多かったらしく、ひとつの石器にすったりたたいたりした痕跡が残っているものや、石皿の縁や裏側に凹みのあるものもよく見られます。
スタンプ形石器と抉入磨石(えぐりいりすりいし)は、使用痕から調理道具の仲間であると考えられますが、発見される地域・時期ともに限られているため発見例が少なく、明確な機能はまだわかっていません。
加工の道具 スクレイパーは、皮なめしのほか木や骨を削ったり、獣の肉を切ったり、まさに多目的な利器であったと考えられています。中でも
石匙(いしさじ)と呼ばれる上部をつまみ状に整形したものは、縄文時代に入ってから登場する石器のひとつで、つまみの部分にひもをかけて携帯したものと推定されています。一方、つまみ部に接着用のタールが付着しているものも発見されていることから、柄を付けて使用されたものもあるようです。
石錐(せきすい)は骨角器などに穴をあける錐として、また楔形(くさびがた)石器とも呼ばれるピエス・エスキーユは、タガネのようにハンマーと対象物との間におかれた間接具と考えられています。
礫器(れっき)は、人類が一番始めに作った石器と言われており、打ち割り機能の他、スクレイパーに近いものや、石斧に近いものなど、用途はさまざまです。
有溝砥石(ゆうこうといし)は使用面の一部が溝状に凹んだ砥石です。石器や骨角器、木器の整形・研磨に使われました。礫石斧
(れきせきふ)は、小形のものは木工具として使用されたようです。
土木の道具 土木の道具である石斧には、打ち欠く加工のみで完成した打製石斧(だせいせきふ)と、打ち欠いた後さらに研磨して仕上げた
磨製石斧(ませいせきふ)とがあります。ともに柄を装着して使用され、打製石斧は現在のスコップのような土掘り具として、住居などの施設の掘削やヤマイモ掘りなど食糧採集にも使われたと考えられています。打製石斧より鋭くかつ強い刃先を持つ磨製石斧は、樹木の伐採や枝払いなどに威力を発揮し、一部はのみなどの工具としても使われたようです。
呪術の道具 これまでご紹介してきた生活に直接関わる道具―「第一の道具」と呼んでいます―以外にも、縄文時代の人々は、その精神世界に関わる「第二の道具」を持っていました。
土偶(どぐう)や岩偶(がんぐう)石棒(せきぼう)、石刀(せきとう)、
土面(どめん)などが、それにあたります。この「第二の道具」は、縄文時代になってから顕著に姿を見せ始めます。道具だけでなく、
配石(はいせき)や環状列石(かんじょうれっせき)などの遺構、抜歯(ばっし)(永久歯を抜くこと。成人式のような通過儀礼と考えられる)や叉状研(さじょうけんし)(歯に切り込みを入れること。特別な役職―呪術者など―を表すものと考えられている)を施された人骨など、彼等の精神世界を窺い知ることのできる足跡は多数残されています。
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